長崎消息
長崎県教職員組合の月刊誌「長崎消息」の連載
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歌に誘われてF
「市原隆靖のふるさと」

 信州の夏は、北欧ほどではありませんが、ほんとうに短くて、あっという間に終わってしまいます。私が通っていた高校の文化祭は、夏休み明けの8月の終わりにありました。多くの先輩たちがそうであったように、3年生は、この「とんぼ祭」と呼ばれる文化祭を思いっきり謳歌します。そして9月になると、まるで秋風に促さたかのように、気分を切り替え、受験勉強に打ち込んだものでした。
3日間に亘って繰り広げるとんぼ祭には、いくつもの名物イベントがありました。その一つが灯篭コンテスト。クラスの有志で、郷友会と呼ばれる出身中学の仲間で、あるいはサークル単位で、大きな灯篭を作ります。テーマは、その年話題になった人や物、マンガの主人公等様々です。とんぼ祭のフィナーレが、形も彩りも様々な灯篭を、校庭の真ん中に集めて燃やす、ファイアー・ストーム。何日もかけて作り上げた灯篭が、オレンジの火に包まれ、火の粉が空に舞い上がっていくのを眺めながら、大声で歌うのが恒例でした。
当時はフォークソングブームで、風、遠い世界に、花はどこへ行った、500マイルなどを歌った記憶があります。振り返ってみれば、私もあの頃は、よく歌を歌っていました。カラオケがない時代、仲間と歌うことは、青春の象徴でした。
やがて夜も更け、小さくなった炎を取り囲み、皆で肩を組み、最後に歌うのが「祝記念祭歌」です。再び訪れることのない季節に、別れを告げながら繰り返し大声で歌いました。
『めぐり来ぬ 今年の秋の記念祭 
悲しみ多き 若き日の
うれひを友と わかつべく 
この丘の上に うちつどひ
命の歌を 歌はばや』

 ながさき音楽祭2008が始まりました。長崎の唄を集めた「長崎の唄、長崎の音」は、9月28日にブリックホールで開催。この演奏会を、より皆様に楽しんでいただこうと、曲の歌詞と簡単な解説を載せた冊子も作りました。調べてみると、歌い継がれてきた美しい曲が、数多くありました。また、新しい長崎の歌も生まれています。その一つが、市原隆靖君の「ふるさと」です。
『空を見上げたら 大きな雲が一つ
その手伸ばしたら 
届きそうな気がしたあの日』
テレビのCMでおなじみの曲です。聞いた瞬間に、素直に心に飛び込んでくるやさしさに溢れたメロディーを、市原君がしっとりと歌い上げています。演奏会で、ヴォーカルと総合司会も勤めてくれる市原君は、こんなコメントしています。
「この『ふるさと』は、上京して2年目のある日、仕事で長崎に向かう飛行機の中で浮かびました。夕方の便は、ちょうど夕日を追いかけるように飛んで行きます。長崎空港に向けて機首を傾けた時、窓際に座っていた私の目に飛び込んできたのは「茜色の空と黄金色の海」でした。自分の生まれ育ったふるさとが、こんなにも美しかったことに、私は嬉しくて涙が止まりませんでした。」

 人は皆、ふるさとの歌を心の中に持っています。私のふるさとの歌は、とんぼ祭で歌った「祝記念祭歌」。級友と一緒に声を張り上げて歌ったその歌は、今でも心の奥で静かにハミングしています。

  (2008年9月 長崎県音楽連盟 堀内伊吹)